(芦屋桜2023より続く)

 

今年も故郷芦屋の桜巡りの季節がやってきた。ハッセルブラッドの「907X & CFV II 50C」で撮影する4回目の芦屋桜。レンズは変わらず「XCD4/45P」の1本だ。来年は阪神淡路大震災から30年の節目。震災から10年後の2005年に「一年後の桜」を、20年後の2015年に「芦屋桜」を出版してきた。

過去3回の撮影日を振り返ると、2021年は3月30日から4月2日、2022年は4月1,2日、2023年も4月1,2日だった。今年もそのタイミングを考えて準備を始めた。震災30年の大きな節目に向けた撮影は今年で完了とするため、2つの撮影をしたいと考えた。まずその1つは、ある人物を撮りたいと考えた。実家と同じ町内に住み、芦屋を世界一のまちへ!と話す、昨年5月に史上最年少市長となった高島崚輔さんだ。少子高齢化が進む故郷で若いリーダーが声を上げ町自体が活性化している印象を受けており、震災から30年が経った町中の桜が、若い市長を歓迎しているイメージを撮りたかったのだ。

町内にある「茶屋さくら通り」で撮影したいと考え、手紙を出したところ幸いにも快諾いただいた。過去3年の撮影で見頃間違いない4月2日に撮影日を設定したところ、今年の異常気象により開花が遅れて残念ながら思うような撮影とはならず、4月6日で再撮影をお願いすることになった。この日は時間をたっぷりと取っていただき、「茶屋さくら通り」で話しながら撮影をしていると多くの老若男女問わず声がかかる。市長単独のポートレイトもいいが、市民と一緒の写真もいいかもしれないと思い、多くの人たちと撮影をしてみた。その中で一番印象深かったのが県立芦屋高校の男子生徒と一緒に撮ったものだった。まるで部活の先輩と部員といった印象の写真で市長と市民には見えない。未来に熱い思いを抱いて並ぶ姿そのものだ。

そしてもう一つは、ある人物のご自宅を撮りたいと考えた。2005年に出版した「一年後の桜」と2015年に出版した「芦屋桜」のいずれもにも解説文を寄せていただいた現代作家で芦屋市立美術博物館の初代学芸課長だった河﨑晃一さん。仕事の傍で作家活動を続けられ毎年個展を開催されていた。その姿勢を見習いたく博報堂に勤務しながら写真家活動を続けてきた。写真集に寄せていただいた文章で、背中を押していただき道を示していただいていた。

しかしながら本当に残念なことに2019年2月にお亡くなりになってしまった。お通夜に行かせていただき思うことをブログに書いた。今回、河﨑さんのご家族に連絡し初めてご自宅に伺った。ご仏壇に手を合わせて3回目の節目に新しい写真集を出すことを報告し、ご家族からから様々なお話を聞かせていただきご本人を偲ぶことができた。そして河﨑さんが亡くなる直前まで眺めていたというリビングの窓からの眺めを撮影させていただいた。まだ町内の桜は咲き始めだったが、テーブルの上に八重桜が活けてあり咲いていた。町を見下ろす窓からは大きな1本松が目の前に見えている。写真家として松と桜をテーマにしているので、このまま続けろと河﨑さんから背中を押されたように感じた。アトリエにも入らせていただき、河﨑さんの存在を感じるようなアングルの撮影をさせてもらった。

 

芦屋桜の定番、開森橋からの眺め(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

あとは、例年のように桜に導かれながら芦屋市内を撮り歩く。ハッセルブラッドのデジタルカメラに切り替えて4回目の桜。結局今年は4月5,6,7日が撮影日となった。過去3年で撮り忘れている場所を考えながら歩いてみたら新鮮なアングルも得られた。撮影も節目を迎えることができたように感じ、ようやくこの歩みに意味を見出せたように思う。3冊目を形にするべく前進あるのみである。ちなみに撮影歩数だが、2021年は約74,000歩(約60km) 2022年は約53,000歩(約43km)、2023年は約42,000歩(約34km)、今年は約43,000歩(約35km)。4年間で芦屋市内を約212,000歩(約172km)を撮り歩いたことになる。芦屋市の規模は面積が約1,857ha、東西約2.5km、南北約9.6kmの細長く小さな町である。

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後日、蒼穹舎大田通貴さんに相談し、2025年1月に出版することとなり作品を預けて編集をお願いした。「たくさん捨ててもいいの?」と聞かれたので、「1枚でも多く残してください」とお願いした。少しして「並べたよ」と連絡があり作品ファイルを受け取りページをめくってみる。1枚1枚がイキイキと居心地良さそうに収まっている。気に入っていたものが外され、予備として渡していたものが入るなどしていたが総枚数はほぼ変わらなかった。その並び、対抗ページとの相性、いずれもが良いのだ。自分が並べていたものよりも見応えが全く違うのだ。9月ごろから出版に向けた作業が始まる。デザイナーは加藤勝也さんにお願いする。

2005年の出版時から20年ほど作品をみてもらっている大田さんから「良い歳の取り方をしてるね」と言ってもらえたのは、自分を信じてこれからも写真を撮り続けたい者にとって最高の褒め言葉。背中をグッと押してもらえた。きっと生涯忘れない言葉となるだろう。

 

芦屋公園にある震災モニュメント(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)