(九州・四国、心残りの場所へ再訪(1)より続く)

 

5月24日 6日目 極めて美しい赤松天然林との出会い

 

土砂降りのためゆっくり始動。13時に道の駅えびのに至る。ここでリモート会議をこなし明日のためにロケハンのつもりでえびの高原に登る。視界が数メール程度の濃い霧。今回目指すアカマツ群生エリアは火山性ガスが発生している通行規制の区間を通り過ぎ小林側に少し下ったところにある。前回2023年9月25日に来た際は完全に通行止めだったため「えびのエコミュージアムセンター」周辺での撮影に終始したが、今回は時間規制となっていたので規制区間(オープンカーNG、窓開けNG)をゆっくり走りと言っても濃霧で視界は数メートルだったが走り抜けてみた。

そのうち雨は小降りとなり、「赤松千本原」と言われるエリアも息苦しいぐらいの濃霧で抜群のコンディションとなってきたので撮影モードに切り替え。道路から少しずつ奥に分け入っていくとアカマツの天然林が極めて美しい。文字通りの”アカマツガーデン”なのだ。東西南北が全くわからなくなりながら結局日没まで撮影。しかし画像がウェブサイトに多数残っているえびの市の市の木である「きりしまあかまつ」と称されている巨樹はほぼ残っていなかった。火山性ガスの影響なのか道路の排気ガスの影響なのか、高地のためマツクイムシ被害以外の理由ではないかと思われる。

日帰り温泉は宮崎県えびの市水流(つる)にある「鶴の湯」なんと200円。無人の施設だが地元の人たちに守られている雰囲気がひしひしと伝わる。泉質は無色透明の炭酸水素塩泉で源泉50℃前後で掛け流し。素朴で素敵。この場に来るだけでも癒しである。

 

えびの高原のアカマツ美林ガーデン(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

5月25日 7日目 濃霧のち晴れのち曇り 極めて美しい赤松天然林から日本最長の吹上浜の黒松林へ

 

5時前に移動開始。雨は上がり空気はクリアだが小林市側から「赤松千本原」に登ると期待通りの濃霧。昨日の”アカマツガーデン”を徹底探求。沈黙を誘うような圧倒的な巨樹には出会えないものの、きっと今が理想的な気象条件で目の前の光景も得難い状態だと思うのだが、もっと良い状態をもっと良い条件をと求めてしまう。車を止めた場所からあまり離れないようにと思っていたが、少しずつ移動を繰り返しいよいよ方角が怪しくなってしまった。

スマホのgoogle mapを頼りたいが圏外。あの土手が目印と思っていた土手は見当違いの土手。この太いアカマツは見覚えがあると思ったアカマツも見当違い。気持ちは焦るも目の前の風景があまりにも魅力的でさらに前に進み撮影を続けてしまう。しかし大まかな方向に見当違いはなかったようで、空が明るい方向に向かうと偶然にも見通しが効いてはるか彼方で木立の間に光るものが見え車とわかり安堵する。

これがアカマツの天然林の本当の姿なのだろうか。どこを向いてもどこまで行っても人の手が入ったような美しい庭園で足元を汚すことなく歩き続けられるのだ。6時前から撮影を始め8時半ごろに霧がすっと動くのがわかり薄くなっていき9時にはクリアになってしまったので撮影終了。全国を巡ってようやくアカマツの天然美林といえる場所に来れたように思う。素晴らしい場所だった。

姶良市の重富海岸を目指す。残念ながら「なぎさミュージアム」で浜本麦くんには会えなかったが松原ではマルシェが開催されており多くの家族連れが集まっていた。昼時を過ぎていたのでおにぎりなどご飯は全て売り切れと好評だったよう。ちょうど引き潮で潮干狩りをする家族、松の下でくつろぐ家族、マルシェを散策する家族。松原のある海岸の理想的な姿がここにある。錦江湾に浮かぶ桜島が松原越しに望めるのも魅力である。前回2023年9月25日に訪問した際に麦くんとはゆっくり話せたのだが、故郷の大切な風景である松原が荒廃しているのをみて再生を決意し取り組み始め、今の美観の成立と施設の管理運営に至る物語に惚れ惚れする。

九州南端の目的地である吹上浜には16時ごろ到着。前回2023年9月27日28日に撮影した入来浜、赤ふん海岸、中原地区の3カ所を行き来する。広大な吹上浜ならではの風景の探求である。到着時は曇天だったが日没近くに日差しが差し込み夕暮れは赤く染まる。広大な松原と日本一細長い砂丘。人を見かけることはほとんどないのだが、どこからともなく人々がやってきて松原を抜けて海岸線へと向かう。地元の人たちにとっては夕日海岸であり日常の中に吹上浜があるのだろう。とても素敵な光景だった。

日帰り温泉は「ふくずみの湯」。泉質は単純硫黄泉、源泉は47.7℃で内湯と露天があり硫黄臭が気分を上げてくれ癒してくれる。吹上浜の車中泊は各所を試したが日置市吹上人工芝サッカー場の駐車場は利便性が良かったことを記しておく。

 

5月26日 8日目 曇り時々薄陽 吹上浜を探求

 

5時過ぎに行動開始。曇天で光が回り7時ごろまで松原の中を歩き回る。睡眠不足を補うため仮眠。大きく潮が引く時間となった11時半から撮影を開始。波打ち際が数十メートルは後退し潮干狩りの人たちが多数出てきた。あらゆる場所から吹上浜らしい眺めを探して歩き回り日没を過ぎた19時半までほぼ休みなく撮影に没頭した。疲れ果てて硫黄臭を求めて今日も日帰り温泉はふくずみの湯。昨日より硫黄臭が強く癒してもらう。明日は桜島を目指す。

 

広大な吹上浜の波打ち際(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

5月27日 9日目 晴れ時々曇り 桜島でパイオニア植物の光景を見る

 

5時半から移動開始。高速インターを降り損ねて時間をかなりロスしたが、とてもタイミングよく桜島から迫力ある噴煙が上がり始めた。9時に黒神の昭和溶岩地帯で撮影開始。ここは前回2023年9月24日に訪れた際にパイオニア植物のクロマツが象徴的に撮影できる場所であることを把握していため、何としても1枚を作り出したいと考えていた。昭和21(1946)年の昭和噴火で出来たこの溶岩原には、地衣類が育った後にススキなどの草本と先駆植物であるクロマツが繁茂し、今日は昭和火口からの噴煙が激しく上がるのが展望でき原始のような風景となってくれて願ってもない撮影チャンスとなった。

桜島は植物の自然遷移を学べる島とも言え、過去の噴火によって出来た溶岩原に松の姿を見つけることは難しく広葉樹が繁茂している。しかし近年のマツクイムシ被害は甚大で、昭和溶岩地帯では目視で半数ほどのクロマツが成長し切る前に立ち枯れている。十分な堆肥層を形成する前にクロマツが姿を消したとしたらその後の植生はどう変化するのだろうか。いずれにせよ植物学者も注目しているようだ。

「有村溶岩展望台」に移動してみたら火口に近いのだが噴煙が多いためか雲が広がったような状態になり始めていて先ほどの迫力が出せないと感じ撮影終了とした。とても良いタイミングで昭和溶岩地帯に分け入ったようだ。

大分県杵築市の住吉浜にある施設に電話をしたら明日は施設長に会えるかもしれないことがわかり、一気に鹿児島、宮崎、大分と北上することとした。途中、小倉浜で日没間際の撮影を終えて九州道を走り佐伯市へ向かうため国道10号線を走ると、対応車も先行車も後続車もなくまた民家もなく走り続ける時間が長い。このまま走ると異界に入っていくのではないかと思うほどだったが日豊本線の駅舎の明かりが見えホッとする。

日帰り温泉は「佐伯温泉かぶとむしの湯」。泉質は弱アルカリ性低張性冷鉱泉で源泉は20℃ほど。しかし山間にある里地に佇んでいる雰囲気が良かった。

 

有村溶岩展望台から望む桜島噴煙(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

(九州・四国、心残りの場所へ再訪(3)へ続く)