(北海道から能登半島へ(1)より続く)

 

2月17日 雪に煙るアカマツ並木との出会い

 

東北道を南下、八幡平市の丘の上の一本松の雪化粧を見るため会いに行く。青空の下、広々とした風景を眺める。やはりいい場所。今日は新潟県村上市の「お幕場」まで辿り着こうと東北道からそれて横手市、米沢市を抜けて走っているとなんと雨。途中から吹雪き始め気持ちは落ち着く。

途中、アカマツが間隔を置いて林立する場所がありちょうど激しく吹雪いてまるで長谷川等伯の国宝「松林図」を思う。等伯も能登から京都への旅の中でこのような出会いがあって、あの絵を構想できたのではないかと思いつつ、撮影の足場がないと諦めてやり過ごしてしまう。1時間半ほど走って休憩した際、その場所をネット検索で確認してみたら「旧奥州街道日当たりの松並木」とある。やはり名を残す松だったのだ。ここを撮ろうと立ち止まらなかった未熟さを情けなく思い反省を込めて戻ることにした。ところが雪はやみ雨が降ってきた。現場に近づくと雪に変わってきた。

大型車も頻繁に走る国道13号線は交通の要所で、路肩は雪の壁でどこにも停める場所がないが、1カ所だけ1台分の凹みがあったのでそこになんとか停める。たまたまそこだけ歩道が除雪されており撮影ポイントまで移動できた偶然に感謝である。今は雪深く旧街道を歩くことはできないが遠目に看板も見える。ネットで見つけたその看板に書かれていた概略を記す。旧奥州街道は秋田、弘前、津軽藩などの諸大名が参勤交代ごとに行き来し、また多くの旅人や物資を運ぶ者たちで賑わった街道である。藩政時代の金山町は宿場として重要な拠点だが雪深く旅人の利便をはかるため松並木が植えられた。

三脚をセットして撮影を始めると吹雪が収まってしまい「松林図」のような佇まいには程遠く気落ちしていると再び吹雪始める。するとみるみる激しさを増し一番手前の松までかすみ始める。期待通りのかすみ方にテンションが上がり移動してアングルを求めながら撮影を続ける。その間も大型車は頻繁に走り抜けていた。気がつけば日没となる。往復3時間を戻ってきて良かった。

暗くなってから鶴岡市に向けて走り始めるがホワイトアウトで目の前が見えない中を走る。寒波が牙を剥き始めた感じだ。鶴岡市内に入ったところでヤマダ電機を検索すると10分程度。探していたでサンディスクのSSDも在庫あり。日帰り温泉は湯野浜温泉の「上区公衆浴場」。泉質はナトリウム・カルシウム塩化物温泉で源泉は57.2℃の掛け流し。

その後、国道7号で南下すると海沿いを走る部分が長く、荒れまくった海からは波の花が舞い散り、越波も激しく雨のように車ごとかぶってしまう荒れ模様に降参しながら走り抜ける。なんとか「お幕場」に近い道の駅神林にたどり着く。

 

吹雪にかすむ奥州街道のアカマツ(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

2月18日 お幕場

 

夜明けから「お幕場」。色あせた新潟県村上地域振興局の看板によると、その昔は松林の高さが低く海が見渡せる景勝地であったことから、村上藩主や幕府の視察では松林に定紋入りの幕を張ったり、村上藩主や奥方も幕を張り巡らせて遊山を楽しんだと言われており、このような由来から「お幕場」との愛称が生まれたと言われているとある。また、寛永21(1644)年の古文書に松林奉行給は米五斗とありすでに「お幕場」に看守人を置いて管理していたようで、松葉、松ぼっくり、枯れ枝は村々の人の燃料となり、山廻り人夫や山林出役も置いて病害虫や枯損木の発見など松林の管理を行い、自然に生えた松の間には松苗の補植も行ったと記されていたようだ。

現在は、村上市産業建設課が管理し、初夏の空中散布を毎年1回行い、草刈り、掃除、倒木や枯損木の処理などを行っている。また地域の保全活動として「砂山地域まちづくり協議会」があり、事務局は村上市神林支所地域振興課が担っている。このため今も「お幕場」は明るく清潔感のある松林として維持され早朝から多くの人が散策に訪れていた。さて撮影の方は吹雪いてくるタイミングを狙ってみたが、あまり激しい吹雪にはならなかった。

能登を目指そうと走り始めると車窓から吹雪の向こうに大きな松が見えるので向かってみると雪は止む。写真の神様が与えてくれているチャンスになかなか気づくことができずタイミングが合っていない感じがして、これまでになかったスランプを感じ始める。1年半積み重ねてきたものがあるという自負と、いまだに訪れているチャンスに気づかず後でその時だったと思う未熟さと、刻々と変化する雪模様とその中を移動していくことで撮影機会を作ることの難しさに直面し、心の中が揺れまくっている。

なんとか富山県高岡市の「雨晴海岸」に近づいたら一つ手前の「越中国分」駅の夜景の佇まいが美しく松はないが撮影。吹雪が止んだので「雨晴海岸」でも1枚撮ったら強風とともに吹雪いてきたので終了。日帰り温泉は道の駅氷見にある「総湯」。ここは去年も来ていたことを周辺の風景を見て思い出す。泉質はナトリウム塩化物強塩温泉、源泉は67.7℃で掛け流し。

そのまま能登半島まで走り夜中に「道の駅とぎ海街道」まで進む。いよいよ能登半島である。

 

お幕場(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

(能登で日本の暮らしと長谷川等伯を想うへ続く)