(山陰・山陽へ再び(1)より続く)

 

11月22日 4日目 宮島の西松原

 

今朝も夜明け前から待機。夜中に降った雨で砂丘の足跡が消えていることを期待したが残念ながら変わらず。7時半に撮影を切り上げ、富士山が冠雪したようなので一気に500km(7時間)移動して三保松原へ向かおうとスタートしたが、せっかく鳥取まで来ているので瀬戸内に南下してまだ十分に撮りきれていない宮島の厳島神社に行き先を変更。ただし鳥取から宮島まで300kmで5時間。まるで、大きな買い物をして金銭感覚がおかしくなって普段なら躊躇するものも気楽に買ってしまっている感覚と同じだろう。

宮島口からフェリーに乗り込む際、券売所の人に「宿泊施設にはほとんど駐車場がありませんが大丈夫ですか?」と聞かれたので「包が浦で車中泊を」と答えたら納得された様子。宮島に渡ってびっくり、昨年7月に来た時よりも圧倒的に人が多い。国内観光客はもちろんあらゆる人種が集まった都心の繁華街を歩いているような混雑ぶり。そんな中でもひたすら宮島らしい松がある風景を探すが、やはり前回見つけたポイントは決して悪くないことがよくわかった。「西松原」である。

「西松原」は、元文元(1736)年に水害によって流出した土砂で御手洗川の河口に松原を築いたのが始まりで、寛保3(1743)年に町人4人が108基の石灯籠を寄進し「西松原」の原形ができたと廿日市市観光公式サイトの年表に記されている。昭和20(1945)年の枕崎台風では山津波が起こり社殿の西部を土石流が埋め尽くす。その土砂で西松原を延伸させた。

「西松原」には樹齢を重ねた松が多いのだが石灯籠には若い松が多く並ぶ。これまでの台風で社殿だけでなく松も被害を受けたため、昨年7月にお会いした廿日市市会議員の井上さち子さんが民間の有志と「子ども松原再生プロジェクト実行委員会」を立ち上げ、一般財団法人日本緑化センターの支援を受け、平成22(2009)年1月に地元小学校の親子50名によって奉納植樹されたものだ。

日没となり灯籠に灯がともる頃になっても人は多かった。

 

西松原より(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

 

11月23日 5日目 角力取山の大松で異変

 

まだ暗い時間に厳島神社に向かうと思った以上に人がいる。拝観時間は6時半からなのだが、明るくなるにつれてわかったのは今朝は干潮だということ。鳥居の足元には大勢の人がいたのだった。アングルを絞って撮影したが早々に切り上げることにした。厳島神社に来るときは潮回りの確認は必須であることを失念していたことを恥じる。本土に戻り元祖「もみぢ饅頭」高津堂に行く。

今回は急遽、24日中に帰宅することになったので、今日中に三保松原まで戻ることとする。678kmで8時間半の移動であるが、途中、総社市に佇む「角力取山の大松」に会ってから向かうこととした。この松は初めての旅で出会い、とても印象深い体験をしたのだった。

昼頃に着くと、大松の横にあった松が切り株になっており、もう1本も赤茶色に枯れている。大松は無事である。皮肉なことに前回はその松があったことで大松が撮影できなかったのだが、今回はすっきりと全体を写すことができる。むしろ前回撮影した方向よりも樹形がわかりやすい。一息ついていたら、大松から一番近い家の人に声をかけてみる。男性は矢吹進さん80歳。矢吹さんが若い頃には角力取山古墳の上には大松が4本あった話や、1本残った大松の脇に立つ松は他の大松が枯れた後に植えられたこと、さらに一番若い松は矢吹さんが植えたものであると教えてもらう。古墳の周辺の公園は総社市の管理だが古墳は教育委員会の管理。今年の夏、矢吹さんが1本の松が枯れ始めたのをみてすぐに市役所に連絡したら、まだカミキリムシが繁殖する可能性があるので9月に伐倒。その後、今枯れている1本も枯れ始めたのでやはり市役所に連絡したがまだ切りに来ないという。たぶん、来シーズンまでには切るのでないかと思われる。大松の保全は教育委員会の管轄で樹幹注入ではなく地上散布を年2回行っているという。大松がこれからも元気でいることを願わずにいられない。推定ではあるが樹齢500年なのだ。古墳の清掃は教育委員会から受託している隣の部落の人たちが行い、大松は林業事業者が教育委員会から受託して手入れをしているそうだ。民間でこの大松の保全活動はないという。行政による継続的に保全する仕組みが機能しているということだろう。前回はおとぎ話のような場所だったが、今回はとても現実的な場所となった。今後はおとぎ話のような空間として過ごしたい場所だ。

高速道路に戻り東へ向かう。日が暮れてきたので休憩を兼ねて温泉に向かう。亀山温泉「白鳥の湯」。泉質はナトリウム塩化物炭酸水素塩温泉、源泉は40.1℃で加温循環消毒。300円。静岡県の三保松原に到着したのは日付を超えてしまっていた。

 

角力取山の大松(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

11月24日 6日目 お気に入りの三保松原へ

 

夜明けとともに撮影。しかし富士山は雲の中。松原の中を散策撮影し、「みほしるべ」の浮世絵などの展示を見る。このみほしるべで日程は調整中だが、大変にありがたいことに写真展の企画展示の話が進んでいる。職員の皆さんとミーティングを行い予算や展示内容について相談を継続中である。目的は以下の2つ。

三保松原の魅力を伝え自分でも同じ場所で撮ってみようと思ってもらえること

・三保松原を含む各地の松原の取り組みや風景(人物&風景写真)を見て松原の魅力を感じてもらうこと

である。この展示を考えることで、今後「松韻を聞く旅」の発表形態や付帯物のアイデアを固めていけると思うので本当に嬉しい。10時過ぎに出発し帰宅する。今回の走行距離は2,019km。

 

三保松原の小径(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

(2年目の雪の東北(1)へ続く)