(孔雀松、根上がり松、棟方志功が絶賛した松より続く)

 

17日目 10月27日 四国縦走

 

今日も夜明けとともに「津田の松原」を散策撮影。気温は18℃程度。波打ち際から数メートルの綺麗な砂浜に松が並ぶ光景はいつ見ても気持ちが良い。隣接する駐車場に車を停めて数メール歩いた先にビーチチェアを並べて座る年配のご夫婦。とっても幸せな空間。

一気に高速を走り高知県黒潮町の「入野松原」を目指した。今回の旅の最終目的地で「砂浜美術館」から黒潮町町役場で講演などの招待を受けている。途中のサービスエリアでは標高があるのか山中だからなのか空気が冷たく感じトレーナーでちょうど良い。ところが高知県に入ると日差しが出てきて車内は冷房しないと暑い。黒潮町に着いて見れば25℃程度で湿度も高くTシャツ一枚でまるで夏だ。

早速、松原と砂浜の間の海浜植物が広がり実生発芽の松が自由な姿で佇むゾーンを撮影。町有林と国有林の松原の間に広がるラッキョウ畑を撮影。この2つの景観が入野松原の特徴ではないかと感じている。この旅に出て初めての投宿。「入野松原」唯一のホテル「NEST」だ。2階の部屋に入って見れば目の前に芝生が広がりその先に「入野松原」がワイドに見える最高のロケーション。

夕食は砂浜美術館理事長の村上健太郎さん、映像担当の松下卓也さんたちと会食。これまでの旅の日々とは打って変わって、明日の黒潮町役場で開催される「入野松原保全推進協議会」での講演や、「砂浜美術館アカデミー」の動画収録に向けた打ち合わせや、これまでの旅のことなども話して楽しい時間を過ごす。部屋に戻って明日の講演のpptを作成し就寝は2時過ぎ。明日も夜明けとともに撮影したいのだが。

 

入野松原(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

18日目 10月28日 「入野松原保全推進協議会」オブザーバー参加&講演

 

今日も夜明けとともに少ない睡眠時間でしたが「入野松原」で無事に撮影。10時半からは入野松原で昨年植樹した松苗が早々に枯れてしまったため、町役場の現場調査に立ち会わせてもらった。そこで去年お話を伺った今村文明さんと再会。今西さんは海洋森林課長時代に「入野松原保全計画」を立案した人物で、その背景、経緯、現在をお聞きしたのをブログに記した。昨年は佐賀地区にある役場で話を聞き撮影をしたので、今回はようやく念願叶って松原を背景に撮影させてもらえた。

さて、13時半から黒潮町役場で「入野松原保全推進協議会」が開催。自治会の区長、森林組合、観光ネットワーク、高知県農業協同組合、黒潮町商工会議所、四万十森林管理暑、幡多土木事務所、高知県自然矯正課、高知県森林技術センター、幡多農業高校、黒潮町環境政策課、産業推進課、企画調整課、教育委員会、海洋森林課からなるメンバー構成には圧倒される。昨年度事業報告、今年度事業計画、その他の懸案事項の質疑などが行われ1時間ほどで終了。そのあとこのメンバー+希望参加者の前で「砂浜美術館アカデミー事業・講演会」の講師として講演した。

お題は「松韻を聴く旅」。旅に出た動機、目的、得た情報と知見と目標などを撮影した作品を投影しながら45分程度で話した。これまで全国各地でSDGsの講演を行ってきたが、いよいよ「松」をテーマに写真家活動を講演させてもらえる機会を得た。まだまだニーズはないと思うが、これを単に「松保全」の話ではなく、サステナブル・ツーリズムのコンテンツ、地域の持続可能性、日本の持続可能性を実現する方法の一つとして考える機会となる話であると認知してもらえるよう行動を続けたい。

その後、入野松原の中心部にある芝生の公園で「砂浜美術館アカデミー」のYoutube動画配信用のインタビューと、「つなごう未来へ、松原と日本の風景」プロジェクトのメッセージ動画の収録を行なった。このプロジェクトのメッセージに「日本各地に存在する松原は、文化や歴史・地域の物語などストーリーをもった一大作品でもあります。本プロジェクトは日本の原風景でもある松原とその周りに広がる風景を未来へと繋ぐことを目標としています。そして、各地の松原に関わる人々の取りくみや想いを知る事・発信することで、地域の活性化や関心を創造し松原の保全を推進することを目的としています。」とある。「日本の暮らしと松」を連携して発信することができて幸せだし勇気をもらう。

夕食は黒潮町役場と砂浜美術館の皆さんと会食。講演内容に刺激を受けたと言ってもらえて自分の旅の蓄積に手応えを感じ、今後の旅へのエネルギーを充電する機会となった。加えて、「慶野松原」が2028年に計画している「全国松原サミット」についても共有した。「入野松原」は、「慶野松原」と「気比の松原」と同じ昭和3年に国の名勝指定を受けているのだ。つまり2028年はいずれも100周年を迎える。入野松原の関係者の皆さんとの連携を深めていきたい。

 

「入野松原保全計画」立案に奔走した今西文明さん(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

19日目 10月29日 高知がご縁のある町に、再会&再会

 

今日も夜明けとともに「入野松原」の撮影でスタート。朝の散歩をしていた「入野松原保全推進協議会」元会長で昨日の協議会で顧問になられた松並勝さんと挨拶。去年、松並さんが見せてくださった昭和30年代に撮影された「入野松原」のパノラマ写真との出会いによってこの旅が深まっているのだ。「砂浜美術館」で動画制作をしている松下卓也さんともバッタリ出会った。ホテルでの朝食の際、昨日の講演を聞いてくださっていた黒潮町観光ネットワーク会長の森田俊彦さんが来られ、「砂浜美術館」理事長の村上健太郎さんも一緒にモーニングコーヒー談笑。森田さんは同い年とわかり意気投合。良い朝だ。

「道の駅ビオス」にある「砂浜美術館」事務所に立ち寄って塩崎草太さんとも会えて出発。「入野松原」がますます近い存在になったのが何よりの収穫だった。

「入野松原」を気持ちよく出発したら、急に高知在住で「牧野富太郎記念館」の展示や制作物のデザインを手がける大切な友人の里見和彦さんに会いたくなり連絡。するととても喜んでくれてランチを約束。1989年に仕事をご一緒して以来のお付き合いで、昨年8月に久しぶりにご自宅に伺ってポートレイトを撮った。ちょうどその時に高知新聞で連載していた人気エッセーの単行本「定年のデザイン」の出版を準備されていて、その写真をプロフィール写真を使ってくださった。嬉しい交流である。思えば1999年に「牧野富太郎記念館」が開催する際、記念館のスナップ写真を撮って欲しいと里見さんから依頼されて開館直前の夏に伺い里見さんのご実家に泊めてもらった。誰もいない記念館の夕暮れのデッキに2人で寝転がりながらヒグラシやクツワムシの鳴き声を聞いたことは生涯忘れないだろう。泣きたいぐらいに素敵な思い出だ。

今回もランチは話が弾み話題が尽きず、食後のコーヒーは里見さんがどうしても連れて行きたい場所があると、おすすめのブック&ギャラリー&カフェ「十月」に行った。お店に入った途端、オーナーが「お会いしたことがあります」という。むむっと思って話を聞くと「つなぐ人フォーラム」で知り合い、上田壮一さんと一緒にインタビューをしてくれた幾野雄也くんだった。Facebookで振り返ると2014年8月25日。10年ぶりの再会だった。橋渡しをしてくださった里見さんもびっくり。連れてきたいと思ってくれたのはこの波長を感じ取っていたのだろう。良いご縁。ゆっくり話ができる素敵なお店で気がついたら15時。再会を約束して出発した。

今日の恒例の日帰り温泉は香川県丸亀市にある「あやうた温泉湯舟道」へ。地元民に愛され350円で入れる温泉で、泉質は単純弱放射能冷鉱泉、源泉は17.6℃で加温循環。ゆっくり芯まで温めてもらった。

 

20日目 10月30日 和田邦坊が描く松

 

今朝は香川県琴平町の「金毘羅宮」の「神事場」と「鞘橋」の撮影からスタート。この旅における「松の名所」。「神事場」は金比羅山の例大祭などが行われる場所でそこに架かる橋が「鞘橋」。看板によると、伝承では元禄年間に架けられたが、江戸時代に何度も洪水のため架け替え工事がなされ現在の木製の橋は明治2年のもの。明治38年に現在の場所に移築され神事専用の橋となり、金刀比羅宮の御旅所で年3回行われる祭典時のみに使用されている。

今日は香川のマルチクリエーターとも言える和田邦坊を研究する学芸員の西谷美紀さんとお会いする。この時期「灸まん美術館(和田邦坊画業館)」では「和田邦坊の白と黒」が開催されている。キュレーションは西谷さん。昨年8月にお会いして和田邦坊が描いた松の作品を持ってもらってポートレイトを撮影した。

香川県出身のマルチ・クリエーターである和田邦坊は、時事漫画家、小説家、商業プロデューサー、讃岐民芸館館長、デザイナー、画家として活躍し1992年に93歳で他界した。後半生に描いた作品には香川県各所の松を描いたものが多く、象徴的なのは香川県知事応接室の巨大な松の壁画「讃岐の松」だ。これは「津田の松原」を描いたものだが、猪熊源一郎に連れられてこの絵を見て感激した棟方志功は、そのモチーフになった「津田の松原」へ和田邦坊と一緒に行き、樹齢600年の松に対して「おお兄弟、ここにおったか」と絶賛したのだ。西谷さんたちが製作した「和田邦坊ビギナーズブック」がpdfでダウンロードできる。

和田邦坊の作品に関して、最近では雑誌「Discover Japan」や「暮らしの手帖」などで特集が組まれ多方面に注目されている。昨年、西谷さんを訪ねて初めて和田邦坊の存在を知った。西谷さんの邦坊愛が凄まじく、確かにその才能と作品はもっと評価されるべきだと感じたので、今後も多くのメディアで取り上げられることを願う。今日の展示で西谷さんが最もおすすめの作品が和田邦坊が4枚の襖に描いた「栗林公園の箱松」。これもとても力強くうねるような松から目が離せない。邦坊が描く香川の松たち。このように独自の世界観で松を捉えるようなことを写真で実現したいのだ。時々このようにして邦坊の洗礼を受けるのは大事だと実感した。

淡路島の「慶野松原」まで戻って「慶野松原根上がり隊」のゼルニク早織さんに再び会う。「入野松原」の取り組みや情報を共有し、名勝指定100年の節目を同時に迎えるため交流を深めてもらえるよう橋渡しをした。大鳴門橋の四国側にある「お茶園展望台」から松越しに大鳴門橋と渦潮が撮影できそうだったので夕暮れに撮影。ちなみに「お茶園」は阿波藩主蜂須賀侯が茶屋を設けて渦潮を観潮した場所だ。ここも「松の名所」といえる。

恒例の日帰り温泉は、南あわじ市の施設「ゆーぷる」へ。塩崎温泉で泉質はナトリウム炭酸水素塩泉、源泉は27.2℃で加温、濾過循環。内湯や露天でぬめり感のあるお湯でゆっくり温まった。

 

琴平町の「鞘橋」(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

21日目 10月31日 松露を自力で発見

 

今朝も夜明けから「慶野松原」で散策撮影。そして、ついに自力で松露を見つけた。白っぽい「米松露」と言われるもので手のひらサイズで大きい!ビギナーズラックである。とても良い香りがする。この感動のまま終日かけて新名神、新東名を走り帰宅した。今回の走行距離は4424kmで、メーターは50,000kmを超えた。

 

(へ続く)