松韻を聴く旅、2年目の雪の東北(3)
12月21日 津軽平野へ戻る
積雪が増え除雪車も出て市街地は渋滞しがち。そこで津軽の手前で雪の弘前城に行き津軽藩主が植えたアイグロ松に三度目の再会。今年1月は雪が少なく、5月は桜満開の中を、今回は吹雪く中でとなった。
深浦町に向かう途中、今朝の雪で松が雪化粧をしていることを期待して2日目に立ち寄った坂柳町の「二十三夜塔のアカマツ」「赤田のアカマツ」を再撮影。期待通りの姿だった。
国道101号線で深浦町へ向かい新潟へ南下するつもりで走り始めると雪が少なく感じる。去年は千畳敷駅の目の前の崖に本来あった氷柱が全くなく地面が露出しているのを見て津軽半島へ引き返し再びこの旅らしい「津軽」を探すこととした。県道31号線の鯵ヶ沢町と建石町の境あたりでりんご畑の丘陵地帯に松の立ち姿が目をひく。これもこの旅らしい「津軽」かもしれない。
恒例の日帰り温泉は「屏風山温泉」。泉質はナトリウム塩化物炭酸水素塩泉、源泉55.2℃で加水なしの掛け流し.。お湯は褐色でタイルも色が染まっており、湯船は2つありジンジンするほど熱くきっと効果があるだろうと思える。この周辺は良い温泉が林立しているのだ。
建物から出るとなんと雨が降っている。積雪量が少ないことで打撃を受けていた心にダメ押しの一撃である。明日の朝の撮影を祈るしかない。
道の駅十三湖高原 今夜はなぜかアンテナ1個程度で入りが悪い
雪の弘前城(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)
12月22日 ようやく津軽平野らしい松に出会う
昨夜の雨は夜中に雪に変わったようだがうっすら積もった程度。空を見ても吹雪く気配はないのだが天気予報を見るとこれから90%雪の予報。祈るような気持ちで7時半ごろから撮影場所で待つと徐々に降り始め気がついたら吹雪の中に佇んでいた。屏風山牧場の建物は段々と見えなくなり点在する松が吹雪に浮かび上がる。風が背中側、この場所では丘側から吹いていたのが目まぐるしく変化し最終的には向かい風となってしまいレンズを拭きながら撮影。8時ごろから9時半ごろまで雪まみれになりながら手応えを感じ興奮状態だった。
吹雪で視界が悪い道路を移動していると、ようやく津軽平野らしい雪を体感しているように感じ、この中で佇む松、生活空間に佇む松を撮影したいと考えながら津軽自動車道に入り南下する。除雪車が前を走るため徐行したのが幸いし、五所川原インター直前で真っ白な平地に大きな一本松が見えたので経路を確認すると辿り着けそうだったので向かうことにした。小さな集落を抜けて視界が広がると、その松は雪に埋まった田畑の畦道の先に佇んでいた。川沿いの空地に車を止めて歩き出すと、土手道だと思うのだが膝まで雪に埋まりながらゆっくり前進。五所川原市は市内の巨樹に関しては丁寧に調査して情報を公開しているのだが、これは情報が全くないのが不思議に思えるほどの相当な樹齢を重ねているクロマツに見受けられるのだ。撮影している間、目まぐるしく天候が移ろいさまざまな表情を撮影することができた。晴れていれば松の背景に岩木山がきれいに見える立地のようだが全く見えなかった。
とても手応えを感じたので、この吹雪の中で佇む「二十三夜塔のアカマツ」「赤田のアカマツ」も撮っておきたいと考え3度目の撮影。津軽の暮らしの中に佇む松だと思えるのだ。引き続き吹雪く津軽平野に佇む松を探すか秋田に南下するかとても悩ましかったのだが、今日から日本海側は積雪が期待できるので今度こそは南下することとした。
東北道から秋田道に入り日没ごろに能代市の「道の駅ふたついきみまちの里」に辿り着く。食事は外観が味わい深くこれは間違いなく美味しいだろうと道の駅の向かい側にある「ゼペット」にした。恒例の日帰り温泉は至近で北秋田市にある「さざなみ温泉」泉質はアルカリ性単純泉、源泉は26.6℃、使用温度は43℃ほどありそうでジンジンと温まった。
日に日に積雪が増える赤田のアカマツ(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)
12月23日 東北の山中に佇む老松を探す
まだ暗いが雪が降り続いていたので、急ぎ30分ほどの距離にある「風の松原」を撮ることにする。撮影中、何度か吹雪き近くで雷鳴もあったが雰囲気のある風景がようやく目の前に展開した。というのも2022年5月に初めて訪れ、去年は12月24日と一日違いで2回目の訪問しているのだ。この時に「風の松原に守られる人々の会」の桜田会長と成田事務局長のお二人にお会いできて、「風の松原」に携わる人の視点で風景が見えるようになってきたのだった。そして今回ようやく雪の手伝いもあって「風の松原」らしい松の佇まいが撮れ始めたように感じる。
秋田市から雄物川を上っていくと雄和相川字銅屋の集落に「街道の松」が佇んでいる。集落から少し離れた道に車を停めると吹きっ晒しで地吹雪の中だった。平成17年に立てられた秋田市教育委員会の看板によると「文政年代(1818~1831)に、相川の徳右衛門家ゆかりの正治郎氏の篤志によって、五穀豊穣と通行人の安全を祈念して植えられたものと伝えられている。往時は、道路の両側に数十本あって見事な松並木を形成していたが、現在は三本を残すのみとなり、大切に保存されている。」とある。しかし1本は枯れており、残った2本も満身創痍な姿である。出会えたことに感謝したい。三脚をセットしているとまた吹雪き始める。雪のあるなしで撮影を試みた。
次は一気に南下して山形県最上郡舟形町に佇む「念仏の松」を目指す。秋田道や国道13号をかなり吹雪く中で凍結した路面を走り、さらにナビがショートカットの道を示すがいずれも冬季閉鎖。確実に除雪された道を選んで向かうが予定通りには辿り着けず。日没が迫りさらに吹雪くので撮影には厳しい明るさになっていた。「念仏の松」の立地は国道47号線から脇に入ってすぐの場所と誰でもアクセスしやすいはずなのに、除雪車によって路肩が雪で固められ大型車などの交通量も多いため近くに車が止められない。1kmほどの場所に今は除雪車が待機するパーキングがあることがわかったが、歩道は膝上程度の積雪があるため、今日は断念して明朝パーキングから徒歩ラッセルしながら向かってみようと考え、早々に最寄りの「道の駅もがみ」に向かった。
恒例の日帰り温泉は、道の駅もがみから2kmほどにありがたいことに「瀬見温泉」がある。温泉街の中にある共同浴場「せみの湯」に入ろうとしたら100円玉4枚を機械に入れるとドアが開く仕組みとわかり、小銭がなかったため道の駅にあるローソンまで引き返した。内湯は無色透明のナトリウムカルシウム塩化物硫酸塩温泉、源泉は67.4℃で最小限加水の掛け流し。露天の薬研の湯は多分だが泉質はナトリウムカルシウム塩化物硫酸塩泉、源泉は67.2℃で最小限加水の掛け流しと思われる。小規模だがとても気持ちが良く上質な温泉で癒してもらえた。
「道の駅もがみ」で雪に埋まる。
風の松原(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)
12月24日 山形の丘の上に佇む500年のアカマツ
昨夜考えた通り「念仏の松」から1kmほどのパーキングに車を止めて膝上まで埋まった歩道を歩き始め、30分歩いてようやく残りわずかというところまで来たのだが、汗だく息も絶え絶えで酸欠状態のようになったので、恐る恐る車道を歩いてみたら意外と問題なく進ことができて思わず一人で苦笑。幸いだったのは歩いている間は雪が上がっていたことだ。やっとの思いで「念仏の松」に着いてしばらく撮影していたらガンガン吹雪いてきた。
「念仏の松」の目の前にある舟形町教育委員会の看板から抜粋すると、「古来より出羽三山参詣の道者達が新庄峠越えを通り、この松の下で三山の方角に向って念仏を唱えたということから名づけられたものである。最上町から新庄へぬける道は、舟形回り、新庄峠越え、亀割峠越え、内山通りであった。舟形回りは、公的な道として利用されたが城下まで最も遠かった。又亀割峠越えは、新庄まで最も近い道であるが、亀割山を直線的に登り下りする機険な山道であった。これらの中で新庄峠越えは、新庄鳥越村休場へぬける道であって往来が最も頻繁だったといわれる。この道には茶屋もあり、藩主のお成り道でもあった。念仏の松は、この道の側にある」とあり、当時の様子が目に浮かぶようなとても充実した文章だった。
「念仏の松」は、幹廻り4m、推定樹齢は500年。これまで出会ってきた巨樹の中でもロケーションも手伝って指折りの存在感だ。小高い丘の上に佇むので吹雪のわずかな合間に遠景が見渡せてご褒美のような時間もあった。7:00に車から歩き始めて撮り始めたのが7:55で、撮り終えたのが10:10頃。あっという間だった。車までの帰路は国道の路肩を歩いて楽をさせてもらった。県道56号線に入ってしばらく走ると眺望の良い白い風景が広がり杉林の中に雪化粧をして一際目立つ「念仏の松」が見えた。目の前には陸羽東線が走っているのだが2時間に一本程度のダイヤで残念ながら時間が合わず。できることならこの季節に再訪できたらと願う。
一気に3時間かけて南下し西会津町の山間に佇む「飯根のアカマツ」に会いにいく。国道459号線と県道383号線を行くのだが事前に冬季通行止を確認し、このアカマツまでは辿り着けることがわかっていた。通行量が極めて少なく、ところどころに昔ながらの建物が多い集落を通りタイムスリップしていくような感覚だった。推定樹齢は不明。雪化粧の季節は稜線のアカマツも目立つのでどうにか撮影したいと考えていたが、幸いなことに「飯根のアカマツ」の背景に稜線に佇むアカマツが入る構図を得ることができた。このアカマツが佇む県道383号線は、奥川に沿って山奥に分け入り弥平四郎という集落に至る。多分、このアカマツがある周辺からは住民以外の通行はないのではないだろうか。雪の上についた車の轍も自分がつけてしまった真新しい轍以外には1,2台程度に見える。もちろん撮影中は誰も通らなかった。帰路に付近の集落も撮ってみた。特に奥川大字飯沢沢窪にある一軒家はとても風情があったのだ。
恒例の日帰り温泉は「会津柳津温泉」にある「つきみが丘町民センター」。泉質はナトリウム塩化物泉、源泉は47℃、掛け流しなのかは不明だった。わずかに塩味、少し白いお湯のように見える。足の裏からジンジンと温めてもらい、今日の疲れを癒してもらった。
「道の駅いなわしろ」はスキー客も多いのか車中泊が多い。
飯根のアカマツ(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)
12月25日 猪苗代周辺の松たち
夜明け前に「白津からかさ松」に向かう。猪苗代湖に近いが古い集落の中にあり磐梯山を背景に佇むのが魅力なのだが、ここは西陽で主役の松が浮かぶロケーションで、夜明けで光が暗部にまで行き届く光線ではやはり厳しかった。続いて国道115号線を安達太良山方面に走り「大原観音の松」に向かう。国道から外れ集落を抜ける旧道の傍に佇む絶好のロケーションなのだが、これまで2回撮影をして納得ができていなかったため雪化粧を期待していた。これまでの撮影よりは手応えを得られたように思う。
さて、猪苗代磐梯インターに向けて戻っていると小さな集落に背の高いアカマツが目を引いた。念のため撮影しておく。ここからは磐越自動車道に入り東北道を走り圏央道をひたすら目指す。夕方の圏央道の自然渋滞に初めて巻き込まれてしまったが18時過ぎに帰宅。次回からは最終日の明るい時間帯も撮影時間として有効に使い、もう少し遅い時間に圏央道を抜ける計画で考える。
今回の旅では、ピンチなことが2件あった。
1件目は、旅の中盤でメインで使ってきたボディのHasselblad 907X & CFV II 50Cが支障をきたし反応しなくなってしまったのだ。加えて愛用のレンズ XCD4/45Pもフォーカスの動きが怪しくなりオートでは動かなくなってしまった。これまで吹雪の中で酷使しても耐えてくれていたのだが、浸水しているのだろうか。以前、富山湾の潮溜りに誤って落として水没させしまい、Hasselblad Japanに送ったところ浸水していなかったのだが。累積しているのだろうか。Hasselblad Japanに送ったところレンズは国内修理で対応できそうなのだが、ボディは国内では前例のない症状で本国のスェーデン送りとなると言われた。送料だけでも高額だが生涯の友として愛用したい愛機だけに原因究明をしておきたいので了解した。同じボディとレンズをもう1セット所有しているので撮影は支障なく継続できているが、このバックアップも同じ症状にならないとも限らない。次の旅はとても心細いが鋭意作品作りに努めたい。
2件目は、旅の後半でキャンピングカー機能のために増設しているバッテリーが、コーヒーを飲む程度のお湯が沸かせなくなるほどパワーがなくなってしまった。このバッテリーで室内灯、冷蔵庫、FFヒーター、各種電源を確保しているのだ。充電方法は走行充電とささやかながら屋根に取り付けたソーラーパネルである。バッテリーの充電状態がわかるメーターが付いていないため、吹雪く道路を移動するような状態も手伝って異様に心細くなってしまい、キャンピングカー屋さんに電話をしたところ社長さんが丁寧に対応くださった。バックアップのつもりで使っていたECOFLOWというポータブル電源をシガーソケットから充電して常用していたのが原因と分かった。仕組みは単純で、いずれも車のエンジンから電源を取っているので全体を100とすればそれを分け合っているだけで、ポータブル電源を車から充電することはバックアップにはならないどころか、ポータブル電源の充電には相当な負荷がかかるようで、キャンピングカー用のバッテリー充電に悪影響を与えてしまっていた。キャンピングカー用のバッテリーを温存するつもりでシガーソケットからポータブル電源に充電するという発想はそもそも間違っていたということだった。立て続けにシガーソケットが通電しなくなるトラブルがあり交換を繰り返していたのだが、メーカーの取説では充電可能とされていたのでこの段階で原因に気づけなかった。それと、冷蔵庫がかなりのエネルギーを消費することは経験上わかっていたのだが、インバーター式の湯沸かしも相当のエネルギーを消費するらしく、パソコンやモニター、室内灯さらにはFFヒーターを駆動させるエネルギーとは比較にならないとも教えてもらった。知識がないことを恥じるばかりだ。吹雪く中での不安は解消し電話口で対応くださった社長さんには感謝、感謝である。
磐梯山を背景に佇む猪苗代のアカマツ(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)
(へ続く)