(冬の東北でマタギを想う(3)山々が微笑む東北より続く)

 

1日目(1月23日)丹後若狭と北琵琶湖を巡る旅へ

 

1月は少しでも多くの雪化粧を纏った地域の松を求めることとして2回に分けることにしてみた。東北のマタギへの想いをドップリと浸したまま訪れたのは福井県敦賀市にある「気比の松原」

「三保の松原」「虹の松原」と共に日本の三大松原といわれ国の名勝に指定されている。寒波襲来に合わせて来たのだが1日早かった。全く雪は積もっていない。

長さは1.5km、幅400m、面積32ha、これまで見てきた松原の中ではそれほど大きくはないが「虹の松原」の雰囲気に近い。全体がほぼ国有林で林野庁の福井森林管理署が管理しており、有識者、市民団体、地元行政と連携し2013(平成25)年に「気比の松原100年構想」を取りまとめている。

まず受けた印象は、積雪による倒木や根返りの多さと雑然としている点であった。この松原を表現するポイントを見定めるべく海側を歩いてみると、砂の流出を食い止める工夫を行っているが、波に根元が侵食されている松が何本もある。

「100年構想」は、海辺の黒松ゾーン、気比の赤松ゾーン、内陸の赤松ゾーンと3つのゾーニングを導入し、実生発芽を促進する方針を立てており、育成期間は林相がなかなか整わないのは致し方ないのであろう。

数年前の写真と見比べると砂浜に佇む松の本数が明らかに減っている。大掛かりな土木事業やきめ細やかな景観管理など、「気比の松原」の課題は少なくなさそうである。

パラパラと雪が降り出しては止みを繰り返すが積雪にはほど遠いので、明日の琴引浜の撮影取材に備えて移動しようと地図アプリで所要時間を確認したら、敦賀から京丹後市まで2時間!土地勘が鈍すぎである。すっかり日が暮れた舞鶴若狭道を走り京丹後市へ向かう。

恒例の日帰り温泉は「弥栄あしぎぬ温泉」、泉質はナトリウム・カルシウム硫酸塩泉。スーパー銭湯のような施設だったがとても癒してもらえた。車中泊は小高い山中にある「道の駅丹後王国食のみやこ」

データ現像のセッティングをしてから電波状態が極めて悪いことが判明。そうこうするうちに吹雪いてきた。

 

積雪がなかった気比の松原(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

2日目(1月24日)目覚めると雪に埋まっていた琴引浜は文化遺産

 

まだ暗い6時ごろ車のドアを開けると一面真っ白。数時間前までは全く積雪がなかったので、ほんの1、2時間で10cm以上は積もったようである。

雪国初心者だが、ここは慌てず車内で朝ごはんを食べてゆっくり車を動かしてみた。山道では立ち往生している車が数台あり、握るハンドルに力が入りそうになるがより慎重に進み琴引浜に至る。

波乗りを始めた30代の頃、何度か足を運んだ思い出の「琴引浜」。除雪車が入る前に着くことができ、駐車場に佇む一本松や周辺の風景がとても絵になり雪にまみれながら撮影。日本海は荒れに荒れ、強い北風に煽られながら海辺にも出て三脚をセットしカメラが飛ばされないように押さえ込んでシャッターを切る。

東北で雪道や吹雪での撮影を経験してきたので、落ち着いて対応しているつもりではあるが、それにしても激しい吹雪で狙って来たといえども大雪警報も出ているようで、午後お会いする約束をしていた京丹後市の濱副市長は災害対応で役所に張り付きとなった。

琴引浜は「鳴き砂」の本家本元で国の天然記念物に指定された名勝。ここで大事なのは、天然記念物に指定された範囲は砂浜だけではなく、背後に広がる小高い古砂丘と砂を洗う沿岸部も含むことだ。古砂丘には天然の松が育成し、江戸時代に防風防砂のため松の植林事業が始まり昭和の戦前まで続いていた。

戦後も家庭の燃料のため松葉かきが行われ健全な松林が維持されていたが、高度経済成長のエネルギー革命によって松林は放置され荒れていったのはここも同じ。そして昭和40年代にマツクイムシが侵入し壊滅的な被害が広がった。マツクイムシの防除と植林はその頃から継続し現在も行われている。

江戸時代の松は残っていないようだが、キャンプ場はテントサイト管理のため常に林床は掃除され、それなりに樹齢を重ねた松が健全に佇み、風光明媚な白砂青松の琴引浜に一役買っている。

キャンプ場からは遊歩道だけがあり、鳴き砂を維持するために必要以上な開発を行わないよう地域で守ってきた。そのため、まったく人工物がない浜はしばしば映画やドラマのロケに使われている。特に時代劇が多く、それこそ市川雷蔵の時代からである。つまり昔ながらの日本らしい「白砂青松」の風景がここには残っているのだ。

そんなお話を日本ナショナルトラストによる「琴引浜鳴き砂文化館」で聞かせていただき、続いて「琴引浜白砂青松保全委員会」のリーダー松尾信介さん(70歳)と語り合い教えてもらえた。

「鳴き砂」は、砂浜だけではなく松林も海岸も含めた地理的条件で成立することを理解し、それによって育まれる時代を超えた景観を守り愛でる暮らし文化という視点でも捉える文化遺産なのだ。

松尾さんの持論は、松はもちろんだが自然全体のバランスを俯瞰して考えることが大事で、松が健全であれば他の植物も松林に侵入するのではなく本来の自分たちの居場所で繁殖し、そこに生きる動物たちも必要以上に町に出てこなくなるというものだ。

この視点こそ、国土保全の基盤的考えでありSDGsではないかと感じる。琴引浜に暮らし関わる人たちは昔ながらの日本人の感性を豊かに持っているのだ。

町中から来て琴引浜に下っていく三叉路の名称は三本松。目印の松があった周辺から松が豊かな場所に戻していき観光資源となる景観にすべく、松尾さんはここでも植林事業を行っている。

松尾さんと別れ午後から琴引浜のキャンプ場を撮影。吹雪いては止み、吹雪いては止みのリズムに合わせて、止みかけたら車から降りて撮影に向かい、暗雲が近づき吹雪き始めたら車に戻るを何度も繰り返し夕方を迎えた。

明日は天橋立で撮影取材の予定なので暗くなって吹雪く中を移動。まずは恒例の日帰り温泉は、お目当ての「智恵の湯」が今日と明日が定休日とタイミングが悪く、どこの旅館も日帰り対応していないので与謝野町の施設「クワハウス岩滝」へ。

源泉名は天の橋立岩滝温泉、泉質はナトリウム-硫酸塩・塩化物泉、源泉温度は56.5℃。柔らかい肌触り。吹雪の中の撮影で疲れた体を癒してもらえた。

さて車中泊だが、大雪波浪警報が出ており、宮津市内では屋外の駐車場に止めたままの車は完全に雪に埋まり、掘り返さないと動かせない状態にある。雪国初心者としては安全対策が頭をよぎるが、何の判断もつかないまま「道の駅海の京都宮津」へ。

雪深い道の駅専用の駐車場に突っ込めず途方に暮れかかっていると、同じ敷地内にショッピングセンターや立体駐車場があることに気づく。今夜は無謀な行動を控えて屋根のある立体駐車場に入ることにした。入ってから調べると宮津市の管理で5時間までは無料だった

 

吹雪く琴引浜(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

(冬の丹後・若狭・湖西をゆく(2)雪化粧の天橋立へ続く)