(冬の東北でマタギを想う(2)東北から117を想うより続く)

 

5日目(1月18日)古の東北を想う

 

8時過ぎ、弘前城に隣接し松の巨樹に近い市営の駐車場がオープンする時間に合わせて入りすぐ撮影開始。このアイグロ松(黒松と赤松が自然交雑したもの)は四代藩主信政が1685(貞享2)年に植えたもので、代々記録されてきた「藩日記」に三の丸土塁上にマツを植えたとあり、マツは常緑樹で成長が早いため城内に多数植えたとあるらしい。

今年で樹齢は338年となり、幹回りは689cmで日本最大のアイグロ松だ。やはり青森は松の宝庫である。

信政は、前回の撮影旅で訪ねた「屏風山」の防風防砂と農業用水を涵養するため松の植林事業を手掛けた大変に興味深い藩主であり、1681(天和元)年に現在のつがる市に試験植林を経て本格的な植林を指示した際に「屏風山」と命名しており、このアイグロ松に会えたのは何とも言えず嬉しい。

早々に切り上げるつもりが、樹齢を重ねた松が城内に非常に多く、マツクイムシ被害は見た目は皆無。しかし、松だけが生えているわけではないので撮影が難しい。松越しの少し雲がかかった岩木山の展望も良く、さまざまなロケーションの撮影にトライしていると気がついたら13時半を回っていた。

城内にあるカフェで遅めのランチを食べて落ち着き結局15時まで撮影を続けた。良き修行だった。本来、桜で有名な弘前城であるので桜の季節に再訪し、桜ではなく松を主役として桜との絡みを撮ろうと心に決めた。

11時頃のことだが、とても長いレンズを付けた男性がひときわ背の高い松の天辺にカメラを向けているので、そんな長いレンズは持ち合わせていないが、何事かと同じように覗いてみると大きな猛禽類が羽を休めていた。

そこへ2羽のカラスがイタズラしにきたので、その猛禽類がたまらず飛び立った瞬間に反射的にシャッターが切れた。あとで写っていた姿をネットで写真検索してみると、なんと!オジロワシの幼鳥のようだ。これは嬉しい。「オジロワシと赤松」である。このプロジェクトで使用しているHasselbladではなくCANON R5で撮影したので使い道はゆっくり考えるとする。

明日を最終日として、ずっと気になっている十和田湖に浮かぶ「恵比寿大黒島」に向かうこととする。その足で16日に撮影したが納得できていない階上町の「火炎の松」の再撮影をしたい。

弘前から十和田湖にアプローチしやすい道の駅は15日にも行った大湯温泉である。「道の駅おおゆ」は駐車場が広く施設も隈研吾設計で美しく、なんと言っても味わい深い温泉街なので前回活用してすっかりお気に入りになっている。弘前から国道7号、国道282号、国道103号で大湯温泉に至る。

恒例の日帰り温泉は「上の湯浴場」へ。前回は「下の湯浴場」で共に地区住民が利用組合を組織した有料の共同浴場。こちらはなんと番台は無人。しかも駐車場無しなので道の駅から10分ほど歩いた。

値段は同様の200円。源泉成分はナトリウム塩化泉で63.5℃。やはり壁には水道の蛇口しかなく、湯船から洗面器でお湯をすくって頭や体を洗う。シンプル極まりなくここもお気に入りに追加だ。湯上がり徒歩はシンシンと氷点下で冷えてくるので急ぎ車に戻った。

弘前城のアイグロ松(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

6日目(1月19日) 十和田湖に至る

 

まだ暗い「道の駅おおゆ」を出て国道103号で十和田湖へ。湖の南側に位置する休屋に浮かぶ「恵比寿大黒島」は、十和田火山の溶岩が露出したもので乾燥して養分の乏しい状態に強いパイオニア植物である松が美しいのだ。

島の前には環境省の看板があり、「弱くて強い植物」と題し「他の植物との生存競争には『弱い』けれど悪い環境には耐えることのできる『強い』アカマツやキタゴヨウなどが生えています」と書かれている。誰にもわかりやすい表現でさすが環境省だと感じ入る。

ここ休屋の御前ガ浜の沖合に、名もなき島が2つ浮かぶがいずれも松が生い茂っていた。やはり溶岩が露出したものなのだろう。

今日は思ったほど積雪はなく、近くにあった環境省の「十和田湖ビジターセンター」で対応してくださった中川一樹さんに聞くと圧倒的に雪が少ないとのこと。

それよりも驚いたのは十和田湖がいつ噴火してもおかしくない状態と聞いたことだ。最近の噴火は平安時代。過去2000年で日本最大で、当時の京都で「朝日に輝きがなく、まるで月のようだった」との記録があると説明したパネルが掲示されている。地震に噴火、そろそろ日本列島は活動期に入っているのだろうか。”松が美しい国”をたくさん撮影しておきたい。

十和田湖の名の由来はアイヌ語で「トーワラタ」。「トー」は湖で「ワラタ」が岩で「岩が多い湖」となる。アイヌの自然観察による命名のセンスはシンプルで伝わりやすく好きである。

国道102号で奥入瀬渓流に寄り道を繰り返しながら国道4号に入り八戸方面に向かい、八戸自動車道などを走り16日に撮影したけど納得できていなかった階上町の「天当平のアカマツ(火炎の松)」を再訪。今回も西陽に照らされる時間帯に合わせて到着することができ、同じような条件で撮影に没頭することができた。

先ほどデータ現像したがまだ納得がいかない。非常に特徴的な樹形だけに、どう撮ってもそれとわかる松のため、どう表現するのかまだまだ修行が足りないのだ。時期を変えて再訪したい。

さて、今回はこれで切り上げたい。今日中に茅ヶ崎は厳しいのでまずは東北道で南下する。車中泊の準備を考えインターに近く日帰り温泉にアクセスしやすそうなことを条件に辿り着いたのは「道の駅にしね」だった。岩手山の麓である。恒例の日帰り温泉は「おらほの温泉」。泉質は含硫黄ナトリウム塩化物温泉で源泉掛け流し。ぬめり感があり芯から温まった。

十和田湖の恵比寿大黒島(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

7日目(1月20日)、最終日のはずが岩手山が微笑む

 

今日は「道の駅にしね」から一気に茅ヶ崎へ向かう予定。と考えていたが、明るくなって真正面に雲に隠れた岩手山の裾野が見えたので、その迫力に惹かれて行けるところまで行ってみたいと思い地図を眺めると「焼走り溶岩流」が10分程度である。これはもしかしたらパイオニア植物である松が溶岩流に佇んでいるのではないかと予想したまらず向かった。通行止めの道もあったが、きれいに除雪された道を行くと赤松林が多く目に入りついつい寄り道しながら向かう。

駐車場に車を停めて積雪で階段が見えない斜面を駆け上がると、雪に覆われて真っ白の平原となった「焼走り溶岩流」にしっかり松が佇んでいた。足場を注意しながら撮影を始めると、重たい雲に覆われていたはずの岩手山が段々と晴れてきてすっかり姿を現し感激と興奮の撮影となった。松を手前に置いて全容を見せた姿が美しいのだ。今日も良い巡り合わせに感謝。

これで踏ん切りがついたと思って東北道を南下する。ところが栗原市あたりで山の稜線に並ぶ赤松のシルエットが西陽に浮かぶのがあまりに美しく、これは気になって仕方がなくとうとう若柳金成インターチェンジを降りてしまった。

しかし、地道からは車窓から見えたようなロケーションに辿り着けず、敗北感を抱いて一つ先の築館インターチェンジから入ろうと国道4号線を南下し始めたら、どうも気になる赤松の稜線が見えるので、目指して地道を分け行ってみると栗原市の「いこいの森」に辿り着く。ここはしっかり管理された赤松の山となっており、日没間際の撮影に間に合った。諦めず求めることが大事だと痛感する。

撮影を終えて落ち着いてネットで調べてみると、栗原市の一帯を包括している「くりこま高原森林組合」が森林整備を受託しており、「栗原市森林整備計画」をみると、人工林の対象樹種はスギ、ヒノキ、アカマツの三種で、これらの樹種は天然更新の対象になっていた。ラムサール湿地に指定されている伊豆沼が隣接し栗駒山の麓に位置する自然豊かな自治体だからか、全国にマツクイムシ被害が広がる中で昔から暮らしの中にあった松林を維持管理していることに勇気と期待を抱いた。この「いこいの森」では、マツクイムシ被害を目視することはなくとても健全な状態が維持されていたのだ。機会を改めてゆっくりと撮影散策をしたい場所である。

さて、とんでもない「寄り道大魔王」状態となってしまったが、それぞれに収穫を感じ良い巡り合わせであったことに満足し東北道に入る。早めの夕食をサービスエリアで食べ、深夜になっても帰宅するつもりで走ったため恒例の日帰り温泉の時間も逃す。すると場所によっては雪、ほとんどが雨という天気になって運転する気力が衰えてきたので無理は禁物と考え、宇都宮市の上河内サービスエリアで車中泊とし、翌朝は一気に茅ヶ崎まで走った。

今回もこの旅で排出したCO2をオフセットするため、森林吸収による公式なカーボンクレジットの購入手続きを行なった。使用ガソリンは255.55リットル、走行距離は2,256kmであった。

 

寄り道で見つけた赤松林と岩手山(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

(冬の丹後・若狭・湖西をゆく(1)大雪波浪警報へ続く)