(九州紀行第3弾(5)再び玄界灘へ出るより続く)

 

1日目(12月17日)7月から開始した「松韻を聴く旅」その6は、いよいよ雪国へ。

 

暖冬で雪がないと聞き、出かけるタイミングを悩んでいたが、そろそろ行かねば日程が確保できないと思っていたら寒波の予報となったので、準備を急ぎ今朝5時半に茅ヶ崎を出発。北陸方面と東北方面で迷ったが青森を目指すことにする。

今回の寒波は北陸や新潟辺りが激しい予報だったので無難に東北道を北上。福島のオートバックスでスタッドレスの100km点検をして、仙台のPatagoniaで心許なかったギアを補充して安心。今回はPatagoniaで一式揃えた服装には大いに助けられというか、Patagoniaの製品の威力を感動体験することになったことを後日記す。

明日、青森でお会いする約束の森林コンサルタントの木村公樹さんと連絡を取り合うと青森の積雪はまだそんなにないという。雪化粧の松を狙いたくて向かっているので尚更この寒波への期待は大きい。

すると仙台市内で雪が降り始め、一ノ関を過ぎた辺りで一面真っ白となってきて期待が膨らむ。ところが青森県に入ってあるトンネルを抜けたら猛烈な吹雪。所有する車に初めてスタッドレスタイヤを履かせての慣れない雪道で視界も悪く、嬉しいを通り過ぎて怖さを感じ時速60kmぐらいでオドオドしながら走る区間もあり、後続車を先に行かせるなどしながら雪道に慣れるようにしてなんとか青森市浪岡にある「道の駅なみおか」に到着。自宅から約780km。冷静に考えると極めてタイミングの良い降雪で、今はマイナス8℃で吹雪いている。

この道の駅を選んだのは、津軽方面の起点にしやすい立地にあってインターチェンジから至近にあること。それに何より味わい深い温泉銭湯があることであった。「浪岡駅前温泉」に足を運んでみると貸切で350円。泉質は地下800mから湧出するアルカリ単純泉で、色は茶色く濁っており吹雪の夜に芯から温もってくる。これからの旅への期待が大いに膨らむ。

明日はここを起点に複数の撮影ポイントにアプローチする予定だ。

 

2日目(12月18日)青森県にはマツクイムシがいない!

 

朝から激しい吹雪の津軽平野。たまに雲が切れて太陽が覗くが気がついたら雲に覆われまた吹雪というかこれが地吹雪というのだろう。広く見渡せる平野を一気に吹雪が飲み込んでく。そんな津軽らしい天候の中を移動し、地吹雪の中で夜明けを待って、7時前から9時前までの2時間をかけて、推定樹齢400年、幹回り約7mの「沖飯詰の松」を撮影できた。

吹雪の中に佇む姿は、日本で最も憧れていた被写体としての松であったが、その念願が雪国での撮影初日の最初の被写体となってくれて実現した。幸先が素晴らしく良く、とてもとても嬉しい。何より撮影条件が良すぎた。積雪だけでなく地吹雪で周辺が見通せない中で、松が最も魅力的に見えるアングルを狙える場所の近くに車を停め続けることができたのだ。ある程度の枚数を撮影したら一旦車に入り雪まみれのカメラボディやレンズを拭き、また車から出て撮影してを繰り返すことができたのだ。雪国撮影初日の人間に対して、初心者コースで手解きをしてもらえたのだろう。それに加えて、きっとこの「沖飯詰の松」との相性がいいのだろう。そう思い込むことで、この先々もきっといい出会いが待っているだろう。

この「沖飯詰の松」の名称の由来だが、もともとここにあったのではなく、飯詰という集落から大洪水の際に流されてここに根付いたとされている。飯詰の集落から見て洪水で水浸しの平野に佇む姿は沖にあることから「沖飯詰」と命名したと五所川原市教育委員会が設置した標識に記されている。そのためか、この周辺の地名は今は沖飯詰となっている。地名の起源となった松だから鳥居と祠があるのだろうか。このような、厳しい気象条件に400年も佇み続ける姿に思わず感動し涙腺が緩みそうになる。昔の日本人が、松を見て神々しく感じ信仰の対象にしたり、長寿延命の象徴と讃えたりした気持ちが素直に理解できる。

いきなり初日のこの撮影で、特にPatagoniaで揃えた服装の効果を思い知る事となった。視界が数メートルの地吹雪の中でも寒さを感じる事なく立ち続けられた。ポケットから撮影器具を取り出してうっかり閉め忘れていたら、大粒の粉雪でポケットがいっぱいになってしまったことを除いて。参考までに一式を書き留めておくと、上半身はM’s Cap MW CrewM’s R1 Air Full-Zip Hoody、その上にM’s Stormshadow Parkaを羽織った。下半身はM’s Cap TW BottomsM’s R1 Pants、その上にM’s Powder Town Bibsを履いた。首元はMicro D Gaiterで温め、雪の降り方が少なければPowder Town Beanieをかぶり、吹雪くとM’s Stormshadow Parkaのフードを頼った。足元はUNIQLOのヒートテックソフトパイルヘザーソックスの厚みが心地良く、SORELのCARIBOU Water Proofを履いたので、膝まで埋まる程度の積雪でも全く心配なく歩けた。手袋はMont-bellのクレマプレインフィッシンググローブで、手のひらは滑り止め効果が高い素材で、親指、人差し指、中指に切れ目があって指先が出せるタイプ。雪の侵入が心配だったが思ったほどでもなく、どんな天候でも機動的で頼り甲斐があった。(全ての商品にリンクを貼ったが製造終了すればリンクは切れると思われる)

さて、感動的な撮影の勢いに乗って津軽らしい天候下で「屏風山地域」を走る。「屏風山地域」とは、つがる市周辺に広がる長さ約30kmの海岸から約3〜4kmの砂丘地帯で約7,500haもある。この屏風山は、1600年代後半、第4代藩主の津軽信政が防砂防風のため松の植林事業を始め、その景観が屏風のようだとして命名されたとされている。特に気になったのが「出来島海水浴場」の周辺で、この辺りだけ海に近いところに集落がある。きっとその昔は砂に埋まる集落だったのだろう。屏風山にある松原は現在、長さ30km、幅は最大で約600m、面積は3,000haと広大である。

森林コンサルタントの木村さんとは早めのランチタイムに「道の駅もりた」でお会いする約束。明治時代に建てられたこの地の大地主増田邸で運営されている「そば処案山子」で食しながら話す。改めて木村公樹さんは、行政で林業政策を長年手がけ、その後は独立行政法人の研究所に勤務され、今年から林業関係のコーディネイトを行う「合同会社もりこね」を起業したという筋金入り。何より青森県及び東北全域の森林・林業に関する研究や地域振興の発展に対する功績が認められ、2023年度の「東北森林科学会功績賞」を受賞されているのだ。日本緑化センターが認定する樹木医でもある。木村さんとは微かな記憶がある5、6年前のエコプロ展でお会いして以来の再会となった。今日と明日、同行してもらえることになった。有り難い。

改めて、木村さんと「屏風山地域」のポイントを巡って気がついたのは、広大な風景に松原が幾重にも見えるのだがマツクイムシ被害は見当たらない。木村さんに聞くと隣県との県境周辺で食い止めることに成功しているというのだ。寒冷な気候でマツノザイセンチュウの媒介者であるマツノマダラカミキリが繁殖しにくいというのもあるのかもしれないが、昆虫の侵入を防御するというのはすごいことだと思う。もちろん他県から移植した松により、青森県内でもマツクイムシ被害が出たところもあるようだが拡大を防ぐことができているという。

つまり、ここ青森には昭和30年代までの松が全盛だった日本の風景があるということだ。ほぼ被害がないため樹幹注入などの治療をする必要がないから、写真を撮影するときに気になって仕方がない松の幹に必ず付いている札が全くない。この旅で探していた、日本ならではの松がある風景は青森に多数残っているということがわかった。ここ屏風山の他にも、特に名所旧跡でもない場所に、樹齢を重ねた大きく太い松がそこかしこに残っている。それも樹勢よく。今後、四季を通して青森の松の風景を探求できたらと思う。

それにしても激しく吹雪く。気がついたら収まる時間帯もあるが、海上からどんどんと暗雲が迫って来て基本的には終日に渡って吹雪いている。道路は地吹雪で視界が数メートル。そんな中、木村さんと明日の約束をして別れてからもあちらこちらへと被写体を求め移動。高山稲荷は赤い千本鳥居でインスタ映えするためインバウンドにも人気のようだが今日のような吹雪では誰もいない。

今回の旅では車中泊の場所を全て道の駅にしようと考えている。理由は、天候不順によるリスク回避と、氷点下でも確実に使用できる水回り。このため、道の駅と温泉をセットで検索しているが、地吹雪で視界の悪い今夜の場所には大いに悩んだ。明日の移動先も考え、また平野部より高原の松林の中にあって地吹雪を避けられる場所として屏風山の北の端に位置する「道の駅十三湖高原」とした。温泉は車で30分ほどと少し離れているが地元の人が行く「つがる市健康増進施設の稲穂の湯」で正解。入浴料は350円。低張性弱アルカリ性高温泉で木製の大きな湯船。温度は43℃と高めで一気に温まった。

 

地吹雪の屏風山地域(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

3日目(12月19日) 松の向こうに楽しい出会い

 

松林に囲まれた道の駅は正解で風も弱く静かに眠ることができた。ここからは中山峠を越えて陸奥湾側の外ヶ浜へ抜けやすい。まずは推定樹齢500年の外ヶ浜町指定文化財「鍛冶屋の一本松」へ。見応えのある松である。ここから北上し「平舘灯台」へ向かう。ここは樹齢300年の松が並ぶ「松前街道」や樹齢200年の松が並ぶ「平舘台場跡」が残る。この台場は幕末期に外国船が津軽海峡や陸奥湾にも現れたため弘前藩が築いたもの。

ここで昨日もご一緒いただいた森林コンサルタントの木村公樹さんと合流。少し早めのランチは、灯台の目の前にある木村さんおすすめの「ペンションだいば」。名物は肉を使っていない「いかハンバーグ定食」だ。店内を見渡すと木材の情報が目につくのだが、中でも周辺の松に関する情報が写真入りで貼ってある。お店に松好きがいるんだなと思っていたら、ここの娘さんの對馬希里子さんが「どちらからお越しですか?」と気さくに話しかけてくれて、「神奈川から全国の松を撮影するために旅を」と答えたら目の輝きが変わり会話が弾み松好きと判明。旅の出会い、松の向こうに人がいる。楽しい。

松前街道に佇む、外ヶ浜町の天然記念物に指定されている推定樹齢600年の「長寿の松」と、推定樹齢400年の黒松と300年の赤松による「夫婦松」はまだ見ていないと話すと、對馬さんが「案内しましょう」。根元に雪がかかった「長寿の松」でいい笑顔をもらった。加えて「あおもり松前街道」でもある国道280号線に沿って立つ松の巨樹情報も教えてもらう。お忙しい時間帯にも関わらず有り難かった。

その後は青森市内に向けて木村さんと国道280号線、「あおもり松前街道」の松を巡るドライブとなった。朝撮影した「鍛冶屋の一本松」をやり過ごし、まず向かったのは少し国道からはそれるが蓬田村にある推定樹齢300年の「玉松」。見る方向によっては枝が円になって見えるためその名がついた。続いて国道沿いにある「昇竜の松」は庭先から道路に枝を伸ばしているのですぐにわかる。この松は推定樹齢500年。代々松前藩の宿泊所となっていた旧家にあり、藩主から贈られた盆栽を庭に植えたものと言われている。残念だがかなり衰弱しているように見受けられる。出会えて良かった。数十分の移動でこれだけの松に会えてしまう。この道は松の聖地のようである。

最後は木村さんオススメ、青森市内の合浦(がっぽ)公園にある青森市の天然記念物指定で推定樹齢450年の「三誉の松」を日没間際の薄明かりで撮影して終了。同じ卯年でなんだか波長が合う良き友人となった木村さんとはここでお別れ。「青森で困ったことがあったら連絡を!駆けつけますから」が別れ言葉。本当に有り難いというか心強い。

明日は下北半島に向かうので、浅虫温泉にある「道の駅浅虫温泉ゆ〜さ浅虫」で車中泊とし、日帰り温泉は地元の人が愛好するその名も「公衆浴場松の湯」で今夜も大正解。350円で源泉56℃で泉質は低張性弱アルカリ性高温泉。冷えた体を一気に温めてもらった。

やはり青森はマツクイムシ被害を抑え込んでいるので長寿の松がそこら中に残り元気。昭和30年代までは全国にあった「松がある日本の原風景」は確実に青森にある。

 

平舘周辺の松、対岸は下北半島(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

4日目(12月20日)松の下北半島

 

目覚めたら駐車場は除雪車が入ったようで自分の車だけが積雪10cmほど。雪化粧を期待して出発。浅虫から夏泊半島の白砂漁港にある平内町の天然記念物で推定樹齢は110年の「たたらの五本松」を撮影してから横浜町へ。

GWの頃は一面が菜の花で美しい丘陵が広がるが今は真っ白で白鳥が飛来している。今回の目的地の一つである踏切の向こうに松林のトンネルがある構図。ここは8年ほど前のGWに発見した場所。記憶を頼りに来てみると記憶通りの風景に感激。マツクイムシ被害のない青森だからこそ再会できた風景なのかもしれない。車中泊の下見も兼ねて「道の駅よこはま」でランチ。

それにしても、下北半島も海岸だけでなく内陸の丘陵地帯にも松林が多く、内陸のほとんどは赤松だと思われるが気になるところを全て寄り道していると全く進まなくなるので、一気に本州最北端の松原がある「野牛浜」へ。「尻屋崎」の付け根あたりなので雪化粧を期待して行ってみると、雪の積もり方がこれまで訪ねた場所と比べてどこよりも少ない。

「津軽海峡」の吹きっさらしだからなのか、そもそも降雪量が少ないのか。沖合に北海道が眺望できる場所まで来て期待の風景がなかったのは残念だが、目の前にある風景を素直に撮ろうとポジティブに考える。が、日没が早くて明日に持ち越すことにして、アイスバーンの山道を再び走って予定通り横浜町まで戻る。ここ「道の駅よこはま菜の花プラザ」は下北観光の拠点となるように戦略的に設計していた。建設中の下北縦貫道路の横浜インターが目の前にあり、道路を挟んだ場所には休憩施設・トイレがある大型車も多数停められる駐車場とその隣はローソン。まず立地として車での下北観光の拠点として活用しやすく設備もこのように整備されていると安心して活用できる。

毎日恒例の日帰り温泉は、道の駅から車で3分で地元の人が御用達の「よこはま温泉」で今夜もまたまた正解。連日の350円、低張性アルカリ性高温泉。ここは普通の温かさの湯船と43-45℃の湯船があり両方入って温まる。今夜ももちろん氷点下。

 

期待通りの踏切(撮影:Hasselblad 907X CFV II 50C + XCD4/45P)

 

5日目(12月21日)本州最北端は雪がなかった

 

今日も下北半島を巡る。横浜町は海岸林や丘陵地帯の防風林は全て健全な松林。ロケーションを探索する時間と心の余裕がもっと必要だと実感。

国道279号線沿いにある大豆田(まめだ)小学校も松林に守られた学校。各地で松林に守られた学校を見て来たが、ようやく納得できる場所に巡り会えたと感じる校舎と校庭。もちろん全国各地に松に囲まれ素敵な撮影条件が整った学校はあると思うので、このような出会いを楽しみにしている。なお、大豆田(まめだ)小学校は2015年11月に閉校式典を行なっている。現在は特に利活用されている気配がなくネット検索しても情報はない。良い形で再利用されることを期待したい。

本州での太平洋側の最北端の砂浜でもある「尻労浜(猿が森砂丘)」と津軽海峡側にある「野牛浜」を経由して、風間浦村にある推定樹齢400年の「易国間(いこくま)の黒松」に会ってから本州最北端の「大間崎」まで足を伸ばしてみた。これまで全く把握できていなかったが、大間崎まで松による防風林が続くのがわかりロケハンとしては大正解。しかし日中でも氷点下なのだが全く雪がないため一気に引き返すこととした。

それにしても撮影時間が足りない。15時を過ぎると薄暗く感じ16時を過ぎると撮影を終了せざるを得ない。夏ならこの時間からがドラマチックな光が期待できる勝負時。これまで四国や九州で1日でこなせた撮影量は2日かかると考えねばならない。加えて下北半島は思った以上に広い。移動時間が予想以上にかかるのだ。明日以降の行動を考えてひとまず浅虫まで戻ることにした。

明日は、再び寒波襲来の予報のため地吹雪の津軽平野が期待できるのだが、明後日には秋田の夕日松原で取材の約束があるため南下することとして、チェックしていた青森と秋田の日本海側に佇む松の巨樹たちに荒天の中で会えることを願う。さて、日帰り温泉は2日前の「公衆浴場松の湯」でゆったり温まる。やはり良い温泉である。

 

(冬の東北紀行第1弾(2)秋田で思考を深めるへ続く)